スレイヤーズあんふぃにっしゅと



どっか〜んっ!!!
「あはは。ガウリイ、どぉしようコレ。」
「どうしようってなぁ〜リナ。」
リナが指差すところには焦げた盗賊が4、5人。
はぁ〜どうしてこうなったんだ・・・・・

それは数時間前。

俺はガウリイ=ガブリエフ。スピードタイプの剣士だ。
自分で言うのもアレだが、剣の腕は一流。
隣で歩いてるリナ――栗色のロング・ヘアに、
宝石の護符が付いたショルダー・ガードに黒いマント。
そう、魔道士で俺がこいつの保護者をしている――には、
脳みその代わりにワカメが詰まってるなど言われるが。
「ねぇガウリイ。」
「ん?なんだ?」
「とりあえずゼフィーリアに行く事はいいとしても、
 どっちみち寄り道するんでしょ?それに・・・お土産ないと後で恐いし。」
街道を歩きながら、横でリナが俺に問う。
言葉の最後の方が少し震えていたのは気のせいだろうか?
「まぁ目的地は決めても俺達だったらそうなるだろうな。」
俺が答えてすぐにリナがポケットから綺麗に畳まれたチラシを取り出す。
「じゃあ、じゃあ、この銀貨3枚食べ放題の店行っていい?」
「おっいいじゃないか。近くなのか?」
これは俺も大賛成。
リナは顔を輝かせ、
「うん。次の町。」
「じゃあ行くか。」
「おっしゃー食べ尽くすぞぉっ!」
そう言い、リナは真上に輝いている太陽に向かってガッツポーズを取る。
そう、ここまではいつものリナだったんだ。

街道の真ん中でどうどうと立っている男達・・・6、7人。
まるで「俺達は悪人だぞ!」というような顔をしている。
盗賊だろう。きっと。
「お譲ちゃん、金出しな。」
「じゃないと痛い目みるぞ。」
飾り気も無いセリフを口々に吐く盗賊たち。
ちなみにこの場合、お譲ちゃんはリナのことだ。念のために。
その盗賊たちに向かって、すかさずリナが反論する。
「い・や(はぁと)」
ご丁寧にはぁとまで付けてる。
「なんだとぉっ!」
当たり前だが、盗賊達が怒り交じりに言う。
ここで戦闘が始まって10分後には勝者が決まってるかな?
と俺は予想したんだが・・・
「ちょっとまて。」
一番図体のデカイやつ――きっと親分だろう――が
他の盗賊達を手で制する。
「そこの岩陰に隠れてるやつ出て来い。」
意外に鋭いやつが居るみたいだな。
そう思いながら俺はゆっくりと岩陰から出てく。
別に隠れるつもりはなかったんだが、たまたまリナと離れて歩いていたら、
曲がり角の先から声がするんで、止まってただけだが。
「隠れるなんてひでぇぞっ!」
「そうだ、そうだ。」
次々に反論の声を上げる盗賊達。
「ひどいわけないでしょーがっ!じゃあなに?
隠れて盗賊やっつけるのはダメで、
か弱い乙女とそのお供を大勢でやるってのはいいわけ?」
「おひ。」
お供って・・・?・・・たぶん俺のことだろうけど・・・
「とにかく!やるぞっ!」
戦闘態勢に入る盗賊達。よし、俺もって思った矢先・・・・・
ごろごろごろごろごろ・・・・・
ん?何の音だ?
盗賊達もこの音に首を傾げている。・・・・・あ!この音は!
ごすっ!
と考えた時には、リナの頭に大人の握りこぶし程度の石が当たっていた。
ぱた。
あ・・・倒れた――ってそうじゃなくてっ!
「おいっ!リナ大丈夫かっ!?」
そう俺が声をかけた時には、リナは盗賊の親分らしき人物に捕まっていた。
「なんだか知らねぇが、チャンスだ。
 そこの兄ちゃんこいつの命が惜しけりゃ剣捨てな。」
月並みのセリフを吐く盗賊。
けど・・・
がしゃんっ!
俺は剣を捨てた。
「リナっ!起きろ!」
俺はリナに必死に呼びかける。
盗賊達がリナを傷つけるより先に倒す自信はあるが、
もしかしたらちょっとした切り傷ぐらいは負うかもしれない。
そうしたらリナになんて言われるか・・・考えたくも無い。
「へっへっ。このお譲ちゃんが起きてもなんともならないさ。」
余裕の笑みを浮かべる盗賊。
「なんなら起こしてやってもいいぜ。俺は親切だからな。」
お!意外な言葉を言う盗賊。人質をとって余裕なんだろう。
「お〜い。お譲ちゃん起きろ。相方がお待ちだぜぇ。」
「うっう〜ん・・・・・」
リナは少し唸ってから目を覚ます。よしっ!これで大丈夫だ。
「おいっ!リナ。魔法でなんとかしてくれっ!」
俺はそう言うが、リナはぼ〜としたままだ。
「どうしたんだ?リナ?」
何度声をかけても反応は変わらない。
「お譲ちゃん、どうしたんだい?俺達が恐くて声も出ないのかな?」
盗賊もリナに声をかける。
その時リナの口が開いた。
「・・・・・炸弾陣 (ディル・ブランド)」
どがしゃあっ!
一気にリナを中心にしてドーナッツ状に土砂が吹き上がる。
「リナ大丈夫かっ!?」
俺は吹き上がっている土砂に向かって叫ぶ。
・・・・・でも返答はない。
さっきの魔法はリナのだろうけど・・・
まさか自分の魔法にかかるなんてバカじゃないし。
とりあえず吹き上がってる土砂を見た。
と・・・土砂が急に静まった。
そして砂埃の中にいるのは一人立っているリナと倒れた盗賊6、7人。
「リナ無事だったんだな!」
俺は駆け寄りながら言う。
「・・・・・」
いつもだったら、
「当ったり前でしょ?こんな盗賊にやられるあたしじゃないわよ。」
とか言うのだが、何も言わない。どうしたんだ?
そして俺はリナの前に立つ。
何か言おうとしたとき、リナの口から意外な言葉が出た。
「あなた・・・だぁれ?」
その場で俺は凍りついたのだった。

リナは・・・石が当たって記憶喪失になったらしい。
本人に聞いたら、
「う〜ん・・・じゃぁそうかも。」
とか言われたからなぁ。
なんか性格が一変してしまった。
前も明るかったけど、今の明るさとは少し違う。
「ねぇ。」
リナが俺に話し掛けてくる。
「なんだ?」
少しうんざりして俺は答える。なんかこのリナは調子が狂う。
「コレどうしよっかぁって考えてたんだけどね、
 ガウリイ、前のリナはどぉしてたの?コレ。」
ちなみにコレとは盗賊達である。
記憶喪失になったあの盗賊ではなく、新たに会った盗賊達である。
「えっと・・・金品巻き上げてた。」
本当のことをいう俺。真似して金品を巻き上げそうだが、
もしかしたらこの行動で記憶を思い出すかもしれないと思ったのだ。
「ふぅ〜ん。前のリナって悪人だったんだねぇ。」
悪人って・・・・・言われればそうかもしれないが・・・・・。
「でも今のリナはそんなことしないよぉ〜。」
「じゃあ何するんだ?」
俺の思惑は見事にはずれた。まぁいいが。
「えぇ〜と・・・・・う〜んと・・・・・生ゴミの日に捨てる。」
「・・・・・・・・・・。」
それもそれで悪人のような気がする。

そんな調子で歩いていた俺達の目の前に次の町、
レイド・シティが姿を現した。

「ふぇ〜結構大きい町だねぇ。」
のんきな声でリナが言う。
「ねぇ、この町で泊まるの?それとも通り過ぎて次の町目指すの?」
「リナ・・・本当に何も覚えてないんだな。」
自分でその言葉を言って悲しくなる。
このリナは俺のことはただの通りすがりの人と変わらないと思うと。
「どぉしたの?ガウリイ?」
リナの一言で我にかえる。
「い、いや・・・えっとそれで、今日はこの町に泊まるぞ。
 銀貨3枚食べ放題の店に行くんだからな。」
「た・べ・ほ・う・だ・いぃ〜」
リナが目をキラキラさせて言う。
「ああ。嫌か?」
「ううん。ぜぇ〜ったいにいくぅ!食べ放題だなんて・・・・・らっきぃ!」
性格は・・・・・やっぱり変わらないかも知れない。

「いっただきまぁ〜すっ!」
大きな声を出したリナはすぐに食べ物を口に運ぶ。
相変わらず美味しそうに食べるんだが・・・量が・・・少ない。
いつもだったら、7皿分くらいはキープするんだが。
今は3皿。まぁこれが普通なんだろうけど。
そう思っていたら、リナが俺を見ていることに気がつく。
「ん?どうしたんだ?リナ。」
「ガウリイ、食べないの?」
しばし考える・・・・・あ!
「リナ〜もしかして俺の皿にあるローストビーフ食べたいのか?」
「え?いや、そぉじゃなくて・・・食べないからお腹でも痛いのかなぁ〜って。」
リナが手を振りながら言う。
読みは外れたらしい。
前のリナはやっぱりこんなことは言わない・・・よな。

やっぱり違う。前のリナと。結局、食べ放題の店でリナが食べたのは5皿。
普通にしては多いけど、いつものリナにとっては充分少ない。
メニュー完全制覇すると思ったんだが・・・
「ねぇ。ガウリイ。」
「なんだ?」
俺は上の空で答える。
「考えながら歩くと転ぶよ。」
ずべべっ!
「ほら。言ったのに。」
あっあのなぁ〜もうちょっと早く言ってくれれば転ばなかったのに・・・
「ガウリイ。大丈夫?」
「ま、まあな。」
そう言い俺はリナの手を取り立ち上がる。
「前のリナのこと考えてた?」
ぎくっ!
「やっぱし図星だったり。」
なんか今のリナ、前より勘が鋭くなってないか?
「ねぇ、ガウリイ。今のリナじゃダメ?」
「え・・・・・」
この展開は・・・まさかっ!
「だって、ガウリイのコト・・・・・」
「俺のこと?」
やっぱりこの展開は〜!
「お兄さんみたいなんだもんっ!」
べしゃっ!
「あれ?ガウリイ、なんで何も無いとこで転んでんの?」
いっいや・・・この先を期待した俺って?
「お、お兄さん・・・ね。」
「え?弟がよかった?」
勘が鋭いんだか、鈍いんだか。・・・・・弟も嫌だけど。

「はぁ。お兄さんか・・・・・」
俺は宿屋の窓から月を見てそう思った。
「・・・・・はっ!なんで俺そんなこと思ったんだ?」
自分で言った事の意味がわからなくて考えを巡らせる。
・・・・・・・・・ピーン!
「なーるほど。俺はリナのお兄さんじゃなくて保護者だからかっ!
 そーか、そーか。なんか違うと思ったのはそーいう事か。」
まだ何か違うことがあるような気がしたが、
これ以上自分の感情に考えを巡らせるのはやめた。
リナが記憶喪失になってから、調子が狂いっぱなしだ。
「でも・・・こんな月の綺麗な夜・・・
前のリナだったら盗賊いじめに出かけるんだろーな。」
そう思っていたとき、ふと視界の片隅に見慣れてる光景が映った。
宿屋から出て行く女の子が1人。
夜の闇に溶け込むようなマント、そのマントを栄えらせる宝石の護符。
腰にはショートソード。
そんな仰々しい格好が似合わない、栗色の長い髪の毛。
・・・・・そう。あれはリナだ。
でも今のリナはこんな夜中に出歩かない・・・・・はず。
じゃあどうして・・・・・・・・・・
「これ以上考えてもしかたがないか。とりあえず」
俺はリナの後をついて行くことにした。

町から少し外れた森の中。静かなはずの夜に攻撃呪文の花が咲いた。
今すぐにも自分を飲み込みそうな炎に怯えあたふたする盗賊達。
そしてその中に一人立つ少女。
盗賊の親分らしき人物はその16、17の少女を見て脅えている。
その少女は不敵な笑みを浮かべ、目の前の盗賊に言う。
「んっふっふ〜。さぁ〜てお宝を出してもらいましょうか。」
――と。まず、普通の少女が言える言葉ではない。
「お願いだっ!い、命だけは助けてくれ!」
そして大の大人がしかも盗賊が16、17の少女に言う言葉でもないだろう。
宝石の護符を身に付け、黒いマントを着込み、
服装に似合わないあどけない少女。そして盗賊が恐がる存在といえば・・・!
「リナっ!」
俺はとっさにその少女――リナに声をかけた。
「ふぇ?ガウリイ・・・?」
俺が居ると思わなかったのか驚いた顔でリナはこっちを見ている。
「・・・えっとー・・・とりあえず話は盗賊いぢめの後でってことで・・・・・ダメ?」
恐る恐る俺の顔色を窺っているが、
「ダメに決まってるだろ!さっさと宿に帰るぞ!」
言い終わると同時に俺はリナのマント引っつかみ街道を歩いていった。
「あ〜ん!あたしのお宝がぁ〜!!金銀財宝がぁ〜!!」
リナが悔しそうな声を出していたが、炎が舞い上がる元盗賊のアジトには、
ぼーぜんと俺達の後姿を見る盗賊達だけだった。

「で、どーいうことだ。リナ。」
少しだけ自分の声が怒りまじりということがわかる。
この質問を投げかけた相手は手を前にし、もじもじと言いにくそうにしている。
・・・・・・・・・・しばし待つこと5分。
さすがに我慢も限界に達し、俺から口を開くことにした。
「記憶喪失ってのは嘘だったわけか。そこまで盗賊いぢめしたかったのか?」
「ち、違うわよ!」
俺の言葉に焦って誤解されないようにリナは答えたつもりだろうが、
余計に俺の不安を煽り立てる。
「じゃあどういうことなんだ?」
「えっとそれは詳しくはわかんないんだけど・・・」
その答えに疑問を覚える。
「嘘・・・はついてないよな。どういうことだ?」
リナを信用し、詳しく追及してみる。・・・嘘というオチがないといいが。
「ガウリイと次の町レイド・シティの話をしてて、盗賊が現れて、
戦闘開始!って思ったらごろごろ音が聞こえて、
なんだろー?って思ってたら、いきなり目の前が真っ暗になって、
目を覚ましたらレイド・シティの中にいたんだけど・・・。」
なるほど。よくある(?)記憶喪失中の記憶はないってことか。
たしか銀貨3枚食べ放題の店を出てすぐにリナが転んで、
意識がなかったんだ。すぐ意識戻ったけど。その時のショックで戻ったんだな。
「で、ガウリイとの話でその間私が記憶喪失だったって知って、
 ガウリイをちょびっとからかおう&盗賊いぢめに行こうと思って・・・」
ってことは結論は一緒だったってわけだな。
「そーか、そーか。結論は変わらないから、10日間盗賊いぢめ禁止。」
「ってえぇ!!!ちゃんと話したのに!
ガウリイそんなニコニコ微笑まないでよ!」
俺はニコニコ笑顔を崩さずに
「絶対にダメだ。」
リナは涙ぐみながら
「お願いっ!せめて5日!ね〜!いいでしょガウリイ?」
「ダメだ。」
「やーん!ガウリイ〜!」
俺とリナの話は空が明るくなりはじめてもまだ続いた。