天使の翼
……いつか見た夢……?
大切な人が、いなくなる夢。
あたしは 何もできなくて
最悪の状態を指をくわえて待つだけ。
何もできないことのくやしさと悲しさ。
あたしは……知っている。
「リナ……おい、リナ!うーん。起きないな。これは俺が二人分の朝食を食ってもいいっていう神の御告げか?」
すぱあぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!
「でっ!!」
あたしの放った不意打ちスリッパストレートアタックになす術もなく転倒する金髪碧眼、頭の中にはふやけたパスタがつまってる自称保護者のガウリイくんっ!!
「んなわけないでしょうがっ!!第一、あんたの頭のなかのどのマカロニパスタのあなの中から神の御告げ…なんていう言葉がでてくるのよっ!!」
「うっ……俺の頭の中にはパスタがつまってたのかぁ……なあリナ、それって食ったらうまいのか?」
「信じるなっ!!」
がこむんっ!!
「いや……、電気スタンドは何がなんでもやりすぎじゃないか……?」
そして朝食時に。
「痛かったぞ」
「だーからー、ごめんねっていってるじゃない」
「すごく、痛かった」
「そんな、ちょっと電気スタンドの当たり所が悪くって首の骨が170度回転したまんまもどんなくなったぐらいで……」
「ものすごく、痛かった」
「……大事ね」
観念して「子羊のミートソースあえ」の皿をガウリイのほうによこす。
あたしは一つため息を吐いて皿にあと一つ残ったポークウインナーにフォークをぶすっとさし、口に運ぶ。
口の中ではじける肉汁。あたしはそれをごくんと飲み込むともう一皿追加しようとしたその時。
『おおおおおおおっ!』
店内が急にざわついた。
「なんだなんだ?」
と、ガウリイがそっちに気を取られているすきに子羊のミートソスあえをいくつか、自分の皿に移してたりする。そして作業を終えるとなにごともなかったかのように振る舞うっ!!
「一体、何が起こったっていうのっ!?」
「おい……、なんか演技っぽくないか?」
ガウリイの言葉には耳にふたをして……
このざわめきの原因となるものにあたしは目を向けた。
……年の頃あたしとそんなにかわらない、透き通るような肌にブルーの髪。美少女といったところか。
ふっ……それでもあたしの足元にもおよばないっ!
「巫女様よくぞいらっしゃった」
「巫女様!」
「巫女様!」
「巫女さま……?」
よく町ぐるみかなんかでどっかのなんかを崇め奉る宗教があるのは聞いたことがある。
そのなかでも巫女というのは大分地位的にも高く、彼女のいうことは神のお言葉とかいって………
「なあリナ、みこってなんだ?」
………。
わかんないんだったらだまっとけ。
「あの……」
「え?」
「旅の傭兵さんと魔道士さんとうけとってよろしいですよね?」
その声の主は紛れもなく、巫女様のものだった。
「おえらい巫女様が、旅の傭兵と魔道士になんのようかしら?」
「巫女様にむかって何たる口のききかたっ!」
「無礼だぞっ!!」
彼女は周りのやじを手で制した。するとみんなが水をかけたように静まる。
そして、あたしの目をじっと見つめながら、
「えらくなんてありません。わたしはフィラエスと申します。あなたがたに依頼……いえ、サイレント様がおよびです。どうか、私の街までいらしてもらえませんか?場所はこの近くのレイングルーシティ。そこの神殿で待っています。」
「ちょっとまって。まさか何も無しにただおいで……っていうんじゃないでしょうね?あたしたちにあなたについていく理由はこれっぽっちもないわ。ただでなんて」
その言葉を聞いてフェラエスは懐から皮袋をとりだしてテーブルの上に置いた。
ジャラッと重量感あふれる金貨の音。
「もちろん、ただでとは言いませんわ。これでよろしくお願いします。その中に途中の宿代もふくまれていますから。」
あたしはその皮袋をとると懐に入れながら席を立つ。
「ん?リナどっかいくのか?」
おのれはぁ……人の話聞いとったんかい。
「トイレか。早く戻ってくるんだぞ」
あんたはぁ………っ!!このゼリーでできたクラゲおとこっ!!
少々こめかみあたりをひきつらせながら(これはフェラエスも含む)
「おーけい。いいわ。」
「ではお願いします。すみませんね、いまちょっと立て込んでいてご一緒できないのが残念ですが……。それではレイングルーシティでお待ちしております。」
そして、日も暮れかけた草原で。
「なんだ、仕事のはなしだったのか」
「じゃあなんだとおもってたのよっ!!」
「いやあ、だからなんだろうなーって思ってたんだよ」
「…………。」
聞いたあたしがばかだった。
「それで、どうなんだ?」
「それが……おかしいのよ。依頼内容も言わず、ただ来いっていうだけ。それだけなのにこの報酬。どーかんがえたってつりあいがとれないわ。それと……あたしたちに先に行ってて。って言ったのに、最後には、おまちしております。――――これよ。おかしいと思わない?」
「うーん……」
「いや、いいわ。あんたに聞くだけ無駄だった」
「分かってるじゃないか」
「とにかく、これのどこがおかしいかっていうと、
あたしたちに先に行けって言った。つまり、自分は後から来るのよ?なのに、お待ちしております。だったら、向こうであたしたちを迎えることになる。あたしたちが先に行ってる以上あたしたちを超さずに先に着くなんて不可能。どう?分かった?」
「ああ。でももしかしたら近道があるのかもしれないぞ」
「それもないわ。むこうにつくにはこの草原を越える以外方法はない。彼女からもらった地図にも書いてあるし。しかもこの草原よ?ずうぅぅぅぅぅぅっと先まで見えちゃうじゃない。これであたしたちとすれ違うときは絶対に気付くわ。」
「あ、そっか……。」
「だから、もし向こうについて彼女が出迎えてくれたというなら……」
「あやしいってことだな」
「そうよ。まあ、魔族がからんでる……とは言い切れないけどね。」
そこで……。あたしは最も重大な問題を発見した。
「ガウリイ、ちょっと……」
「ん?なんだ?」
「この地図……レイングルーシティまでにどこか街……ある?」
ガウリイは地図から目を離し、笑ってあたしの頭をぽふぽふたたいた。
彼はまだ、気付いていない。
「はっはっは、お前さんさっき自分で草原を越えるって言ったじゃないか。草原以外ないぞ。目的地まで。」
「だーかーらーっ!!どこに泊まるのよっ!!」
「あーーーーーーーっ!!」
「野宿じゃないっ!!」
「そうだそうなる!どーするんだっ?!」
「どーするもこーするもないでしょっ!晩御飯抜きの野宿よ!」
かくて、あたしたちは野宿となった。
テントなんかあるわけない。草原の真ん中にただ腰を下ろし、ライティングの光をぷかぷか浮かしてるだけである。
「リナ、別に寝ていいぞ」
「わかったわ。ありがとガウリイ」
「もうすこし俺にも気を使えよ……」
「くー。くー。」
「……。」
………。
止まらぬ時よ
止まらぬ波よ
逆らえぬ運命の前に
お前ははただ さまよう
抜け出せぬ音色の中で
お前はただ 苦しむ
清めたまえ
願いたまえ
汝はただ生きるだけ
不思議なメロディー。
小さな少女の声。
あたしはこの歌を知らない。
でもなんか、知ってる。
聞いたことは、ない。
でもなんか、知ってる。
あたしは……何?
「リナ!なんかくるぞっ!!」
「!?」
ガウリイの声に飛び起きて呪文の詠唱を終わらせたその時。
彼の予感どおり、なにかがあたしたちの前に突然現れた。
それは、あたしもガウリイも知った顔。
「あんたは…………」
続く