絶望の縁から


あたしはいた。
暗闇の中に。
光のない世界に。
あたしはいた。

ここ…どこ…?
あたしは戸惑っていた。
いつからここにいたのかわからない。
気がついたときにはこうだったのだ。
とにかく、こんなに暗くちゃ何も見えないわ…
呪文を詠唱する。
明り!
あたしの手の中に光がうまれる…はずだった。
しかし、光どころか何も見えない。
こんな状況をあたしは知っていた。
黒霧炎…あたりを闇に包み込み、一切の光を遮断する術だ。
気配を探る…近くに術者がいてもいいはずだ。
しかし、気配どころかあたりには音も何も聞こえなかった。
汗がほほをつたった。
どうして?
何がどうなったの?
誰が何のために?
それとも…
世界が滅びでもしたの?
あたしは今まで感じたことのないこの気持ちをしった。
…絶望…
何も見えない。
視界に入るのは暗黒の闇だけ。
どうすればこの状況を変えることができるの…?
それは永遠にここにいてやがて訪れる死を待つのみ…
どこからかそんな声が聞こえた…。
冗談じゃない
あたしは死なない
現に今も…
言葉を失う。
感触がない、なくなっていたのだ。
自分のこぶしに。
手を開いてまた閉じた。
しかし、感触がない。
あ…これで…こんなところで…
何もかも終わり…?
あたしは怖かった。
すべての記憶を失うのが。
今まで出会ったみんな…
走馬燈のようにみんなの顔が脳裏をよぎる。
あたしは崩れ落ちた。
涙が手の甲をうつ。
冷たい…
…あ
あたしは立ち上がった。
まだ終わっちゃいない。
ちゃんと手に感触が残っていた。
現実から目をそむけて泣いててどーする。
涙を指でふき取った。
へへ…あたしらしくないや。
無理だとわかっていても。
もしかしたらそれを乗り越えられるかもしれない。
希望は全くないわけじゃない。
ないに等しいかもしれないけどやってみなきゃわからない。
あたしは自分自身に言いきかせて大きくうなずいた。
その時、光が差し込んできた。
上を見上げると闇が雨雲のようにひいていくのが見えた。
光
あたしはこれほど光をうれしく思ったことはなかった。
やがてすべての闇は退き強い光があたしの全身を包み込む。
そして、次の瞬間…


「へ?」
あたしは体を起こした。ゆ、夢?
「お、ようやく起きたか、リナ」
ガウリイが言う。
「が、ガウリイ…」
あたしはガウリイの顔を見て光と同じく、これほどうれしかったことはなかった。
普段いつもどおり見えているはずのものが見れなくなる…。
あんなに悲しいものだとはわからなかった。
って……。
「なに人のひざの上で寝てるんじゃぁああ!目覚めのすくりゅーパンチ!!」
「ごふっ!?」
「このくらげ!歯につまったわかめ!
どーせ脳みそが青コケにでも汚染されているんでしょーけど。勝手に人のひざの上で寝ないでくれる!」
「あたたたた…だからって顔面なぐることはないだろ!?」
「うるさい!乙女を下にしいて寝るあんたが悪い!」

かくして、あたしは夢で得た教訓を新たに胸に抱いて突き進む。 ずっと、果てしない旅を、どこまでも歩んでいく。 ガウリイと共に。

おわり